
狼の国ロウガルド

第1話「はじまりの遠吠え」
まだ、この世界に――
ロウガルドという国が存在しなかった頃。
そこには広大な森と、どこまでも続く山々。
そして、夜になると月明かりだけが照らす荒野が広がっていた。
人々はその土地を恐れていた。
「狼の森」
そう呼ばれるその場所には、巨大な狼たちが群れを作り、静かに暮らしていた。
しかし、狼たちの中には一つの掟があった。
「人間を傷つけてはならない」
狼たちは人間を襲わなかった。
それでも、人間たちは狼を恐れた。
そしてある日――
一人の少女が、その荒野へやって来た。
少女の名前は――
Kuu。
銀色の髪をなびかせながら、Kuuは一人で歩いていた。
その瞳には、青い光が宿っている。
そして彼女の耳は――
狼の耳だった。
Kuuは、人間と狼。
その両方の血を受け継いだ少女だった。
「ここなら……」
Kuuは荒野を見渡した。
「誰も争わずに暮らせる場所を作れるかもしれない」
しかし、後ろから低い唸り声が聞こえた。
「グルル……」
振り返ると、巨大な黒狼が立っていた。
狼の群れの長――ガルド。
「人間が、なぜここに来た」
Kuuは怯えながらも、逃げなかった。
「私は人間だけじゃない」
Kuuは自分の狼の耳に触れた。
「私にも、あなたたちと同じ血が流れてる」
ガルドはKuuをじっと見つめる。
「……ならば、何をしに来た?」
Kuuは荒野の中心を指差した。
「ここに国を作る」
狼たちがざわめいた。
「国……?」
「うん」
Kuuは笑った。
「人間も狼も、一緒に暮らせる国」
「誰かが狼だからって追い出されたりしない」
「人間だからって、狼を怖がらなくてもいい」
「みんなが自分らしく生きられる場所を作りたい」
しばらく沈黙が続いた。
やがて――
ガルドがゆっくりとKuuの前まで歩いてきた。
そして大きな前足を地面につけた。
「ならば……ここを、お前の国にしてみろ」
Kuuは目を見開いた。
「……いいの?」
「我々も手を貸そう」
その瞬間。
一匹。
また一匹。
狼たちがKuuの周りに集まり始めた。
Kuuは空を見上げる。
そこには大きな満月が輝いていた。
「この国の名前は――」
Kuuは静かに呟いた。
「ロウガルド」
狼たちが一斉に空へ向かって吠えた。
――アオォォォォン!
その声は山々を越え、森の奥まで響き渡った。
それが――
狼の国ロウガルドの、最初の遠吠えだった。
翌朝。
Kuuは最初の一本の柱を地面に立てた。
狼たちは木材を運び、人々は石を積み上げる。
小さな家。
大きな広場。
狼たちが走れる森。
そして、誰もが集まれる中央の場所。
少しずつ。
少しずつ。
何もなかった荒野に、町が生まれていく。
しかし――
Kuuは知らなかった。
ロウガルドの建設を、遠くの山から見つめる一つの影があったことを。
その影は赤い瞳を光らせ、静かに呟いた。
「……狼と人間が共に暮らす国だと?」
そして口元を歪める。
「そんな国……長くは続かない」
風が吹く。
Kuuが振り返る。
「……今、誰かいた?」
そこには誰もいない。
ただ、遠くの山に黒い影が消えていった。
Kuuは不安そうに空を見上げる。
それでも――
「大丈夫」
Kuuは笑った。
「ここを、みんなが帰ってこられる国にする」
こうして少女Kuuによる――
ロウガルド建国の物語が始まった。
そして、この小さな町が後に――
世界中の狼たちが憧れる、巨大な王国へと成長していくことを、まだ誰も知らなかった。
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